ぼくの心の揺れ動くはかりの上で

「あ、え、田村さんっ。も、も、もう来てらっしゃったんですね」

 ぼくに関して萩原雪歩が犯した本質的かつ神秘的な失策は、《汝の憂いは雪片に翳るあらゆる意味》、今だに世に現出することを叶わせていない、壮麗にして幽玄かつ無欠の長編エレクトロニカミュージックの、ほんの片鱗であり序の口であり序章に過ぎなかった最初の五分、いうなれば海外の小説で目次の次のページに見られるような「親愛なる僕のペテロへ」といった全く意味をなすことのないような作者の戯れ、グールドが演奏の前に行ったという神経症的なまでの椅子の高さ調節、一種過大に譬えたとしてもアニメが始まる前のお決まりの警句である「テレビから離れて明るくしてご覧下さい」、でしかない代物を持ってして、それを一個の完成された作品であると誤解し、彼女のプロデューサーに働きかけ、さもまとまった一個の作品であるかのように扱わせ、さらに、あろうことか彼女自身がそのほんの前触れに詞を付けて歌うという暴挙をやってのけ、彼女が嬉々として事の顛末とともに持ってきたデモテープを私に恥ずかしそうに、しかしその裏に孕ませた自信を匂わせることを忘れないように、頬を赤らめて聴かせた瞬間にぼくたちの関係は一気に急転直下のクライシスを迎えたのであり、そのことに気がついたぼくはさらに彼女への愛情を深くし、重量を失くした天使の言葉は今まさに私の耳に届いたのであり、当に色褪せた過去の否定的興奮の波はすでにぼくたちの関係性の防波堤にみじんの影響を与えることも出来ないほどの小さな波紋となって思いをくすぐるだけなのだ。
 潜在意識の軽業の為す飛躍的思考を破る可憐な響。雪歩。私はハッとして素早く彼女の姿に焦点を合わせる。眼が眩まんばかりの白き妖精に私はありったけの愛情で応える。

「おはよう、雪歩」

「え、え、え、えと……今日の待ち合わせって、駅前に十二時集合ですよね……」

 目の前の小動物化したポストアイドルが焦るのも無理は無い。なぜなら今はまだ十一時だからだ。一時間も早く到着した雪歩の目の前にはいるはずのないぼくがいるのだから。

「そうだよ。十二時集合で今は十一時で、ぼくは朝の六時からここに、こうして立っているのさ」

「え、え、え、それってなんでそんなに早く着いてるんですか〜、早く来て、心の準備をして、それから深呼吸とかして、いざ、鎌倉っていう気持ちで、兎に角、心の準備が……すいません〜」

 今にも泣き出しそうだ。やれやれ。ぼくのお姫様はすぐに深い穴へもぐろうとする。そんな場所は全く似合わないというのに。

「ほら、何も謝ることなんてないだろ。ただちょっと雪歩よりもぼくは緊張してしまって、うっかり極端に前のりしちゃっただけなんだからさ」

 ぼくは軽く雪歩の頭を撫でながら彼女を深い穴から引っ張り出す。ああ、何度目だろうこのやり取りは。ぼくは彼女に穴を掘ることを止めさせて、強く両の足で地に立つことを望みながらも、この関係に背徳的な執念を抱いてもいる。もし彼女が穴を掘らず、犬に怯えることもなく、男性にも普通に話しかけられるようになったら、ぼくは、彼女との関係を続けていけるのだろうか。彼女の成長を心の底で望みながら、ぼくは彼女に依存される王子様でい続けることを心の暗い部分では望んでいるのではないだろうか。彼女の成長を阻害してるのはこういったぼくの行動一つ一つなのではないだろうか。上辺ではぼくは彼女に精神的に自立することを、精神を自律させる術を心得て欲しいと思っているのに。彼女の掘る穴、三角座りでうずくまる彼女、ぼくは弱くて寂しい彼女の前でだけはいつだって王子様になれる。手を差し伸べられる。どこかでこのお決まりの反復にうんざりしながら、心を依存させている。

 彼女はぼくに依存し、ぼくもまたぼくに依存する彼女に依存している。

「ほら、もう泣かないで、せっかく今日はお洒落をしてきたんだから、そんな泣き顔じゃ全部台無しになっちゃうよ。今日はもっと楽しくなる予定なんだからね!」

 もう一度、雪歩の髪をそっとなでる。もう午後がすぐ近くに来てはいるが、朝の残り香と一緒に日の光を吸ってますます美しい雪歩の色素の薄い茶色い毛髪がしっとりとした肌触りでぼくの指先を流れる。

「そうですよね、今日は、せっかく楽しくいこうと思ってたのに……」

「そう、人生楽しまなきゃどうする? さ、いこう。幸いなことに時間はまだまだあるだからさ!」

 泣き止んではいるが、いつもよりも少しだけテンションを低くした雪歩と一緒に藤沢駅から江ノ電に二人で乗る。二人で隣り合って席に腰を下ろしぼうっとしていると平日の昼間だというのになぜこの電車の中には学生服を着た学生たちがちらほら乗り降りするのに気がつく。片方だけで足が二本は入るかという太さのパンツに妙に短い学ラン。短いスカートにルーズソックス。駅に止まるたびに目の前ぎりぎりをランウェイに繰り返されるファッションショー。
 ふと思い、眼前に繰り広げられる時を遡って移される光景から雪歩のほうに視線を移す。瞬間、ふわりとした香気に包まれる。車内までわずかに浸透してくる磯の香りに雪歩の香りを見つけて、思わず愛おしい気持ちになる。

「雪歩、今日の服も素敵だね」

「え、あ、なんですか、いきなり……そういうことは、会った瞬間にいうものなんですよ。女の子はいつだっておしゃれを褒めてもらいたいんですからっ」

「ごめんね。雪歩、だって朝はなんだかばたばたしてしまって、言えなかっただけで、ぼくは言いたくてずっとうずうずしていたんだ。もう一度いうよ、雪歩、今日も素敵だね」

 雪歩は真っ赤になって顔をうずくめて私なんか駄目駄目でひんそーで、とかなんだとかお得意の全然そんなふうには思っていない自己憐憫行為を繰り返すが、その声色には明らかにいつもとは違い、楽しいものが含まれたいた。雪歩をもう一度ゆっくり愛しむ。

 サーモンピンクの七部丈のシャツは比翼仕立てになっておりシルクコットンの少し光沢のあるマテリアルと合わせてずっとエレガントだ。加えて襟元にきちりとシックに結ばれた細すぎず、かといって野暮ったくなるほど太いわけでもない黒のボウタイは雪歩の清潔な性格を現しているようで野蛮なファッションショーの後ではとりわけ好ましく思えた。上品なカーキ色のカプリパンツとニュアンスで光沢を出す控えめなブリックカラーのスパンコールの飾り付けとモーブカラーのエナメル地が雪歩のかわいらしさをより引き出すミュールとの間でほっそりと顔を覗かせる足首から踝、踝から脹脛にかけての健康的なラインに僕は目を細める。ひざの上に小さめの黒いリュックを抱えて赤くなる雪歩の今日のファッションはいつもよりずっとおしゃれだ。特別な気持ちなんだろう。見ただけで、今日の日を楽しみにしていてくれたことや、前日から眠れずに明日着ていく服どんなにしようかなぁ、なんて一人鏡の前で悩んでいる姿まで想像できる。気合を入れてきてくれた女の子がいれば、それに答えるのが男子の本懐だろう。

「雪歩、素敵だよ」

 ぼくは顔を真っ赤にする雪歩がおもしろくて、からかい半分、本音半分で雪歩を褒める続ける。

「あ、あ、あ、あの、その、田村さんも今日の服すごいですよねっ! なんていうんですか、そのペイズリー柄がとにかく、すごい感じがしますぅ!」

「拾ったんだ」

「ひ、拾ったんですか」

「ああ、落ちていたものを拾って着ているんだ」

「え」

「時間というものを服に、繊維に織り込もうとした者たちがいた。ヤマモトヨウジが作る服は非風。アンチモードだ。その特徴は何にも囚われない軽やかさにあるんだ。着ているものの意味を根こ削ぐ。ヨウジヤマモトの服を着ているとき、ぼくはあらゆる意味から解放される。あらゆる時間から開放される。音楽プロデューサーでもなくサラリーマンでもなく美術評論家でもないぼくだ。開放する衣服……」

「すいません、拾った服を着ているのと関係あるんでしょうか……」

フセインチャラヤンもまた衣服に時間を紡いだ。地面にドレスを埋めて三ヶ月寝かせてからそれを掘り出す。その結果ぼろぼろに腐食したドレスをモデルに着せる。三ヶ月分の時間を孕んだ衣服の出来上がりだ。コムデギャルソンは縮維加工により擬似的な時間を表出した。でもそれって結局古着でよくない? 結局提示の仕方の違いと加工の過程の違いなだけじゃないか。ぼくはアンチモードが、反芸術が芸術に回収される運命にあるのと同じようにモードに回収されていった今の風を皮膚にする襞として拾った服を着ているのさ!」

 ぼくは一気にまくし立てると雪歩の肩を掴みながら瞳を見つめているその姿勢が雪歩にどれだけプレッシャーを与えているのか反省してさっと手を離す。雪歩は赤かった顔をさらに耳朶まで真っ赤にして目を回している。こいつ、話聞いてなかった、などと思いながら適当な駅で下車する。少し早いが昼ごはんにしようという作戦だ。適当に下車できるのには理由がある。今日のぼくたちは「乗り降り君」という一日江ノ電フリーパスを買ったからだ。自失していた雪歩はというと、早速気を取り直し「乗り降り君ってかわいいですよねー。のっりおっりくん♪ のっりおっりくん♪」などと妙な節までつけ始め、上機嫌だ。

 事前に下調べなどせず行き当たりばったりなぼくたちだが、なんとなく名物だと聞こえるしらす丼を食べてみたいという雪歩の希望を汲み、探してみる。駅から少し歩くと海の家のようなつくりの建物が視界に入る。看板にしらすの文字と目線を下げると、長蛇とはいかないものの中蛇くらいの行列が見える。ほんとに流行ってるんだね、平日なのにすごいですね、などと話しながら列の最後尾に並ぶ。飲食店に入るために並ぶくらいなら絶食したほうがましだし、適当な材料買ってきて自分で作ったほうがうまいご飯が食べられるということを理由にぼくは外食はファストフードしか認めない。どこで食べようと味なんて大差なく、まずくて出されるのが遅いくらいなら均質な味と均質な時間をサービスしてくれる大手ファストフードがぼくには好ましいのだ。それでも最近、雪歩と一緒にいて考えが変わった。こうして待っている時間も雪歩となら楽しいおしゃべりの時間になることに驚かされた。待っている時間が楽しくなっただけではない。お店での食事も、普段は気にしないような店員の機微や、サービス、雰囲気に敏感になった。食事をするだけの空間ではなく、ぼくと雪歩二人の時間を空間をサービスしてくれる環境、これが大事なんだ。雰囲気だ。心地よい空気をぴたっと心に定着させるような雰囲気。普段はできないような話を、普段はいえないような大胆な発言も雪歩にさせてしまう、ムード。誰かと一緒なら、食事はただの栄養補給にあらず、極めて人間的な文化の営みになる。他人にとってみれば当たり前のことかもしれないが、ぼくは二十八年間生きてきて、雪歩と一緒に過ごすようになってから初めてこのことに気がついた。いままで人生の中で閉塞感を感じてきたが、可能性を摘んできたのは自分だったのかもしれない。
 待っている間に、雪歩がぼくに最近の東京茶情報を教えてくれる。何でも代田橋方面に新しく中国茶の店ができたらしく行ってみたいだの、渋谷の中国茶屋に新茶の入荷があったから行きたいだの、実際に中国に行ってみたいだの最近は中国茶づいているらしい。ぼくは、最近友人になった中国茶フリークのことを思い出して、そいつと雪歩が一緒にお茶をしばきながらおそらくかみ合わないだろう会話を繰り広げる場面を想像して一人で噴出してしまった。

「ううっ、どうしたんですか? 私、何か変なこといっちゃいましたか?」

「ごめんごめん。今度中国茶フリークの友人と一緒にお茶でも飲み行ってみると面白いかもなぁ、と考えてたんだ」

 急に雪歩の表情が翳る。どうしたのだろう。

「今日一日は、私の前で私以外の人のこと考えるの禁止ですっ!」

 驚いた。雪歩がこんな風に我を通すことはあまりない。それこそお茶のことぐらいだと思っていた。ごめんごめんと、謝るぼくをそっちのけにして一人自己嫌悪に陥り「あー私なんでこんなこと言っちゃったんだろう、もう穴掘って埋まっていたいぃ……ううぅ」とすぐに急転直下で落ち込み始める雪歩。忙しいやつだな。

「悪かったから、ほら、もう席空いたみたいだよ」

「そ、そうですよ、田村さんが悪いんです。私はなにも恥ずかしくありません!」

 恥ずかしいとかそういう話なのか。ぼくたちは席について注文をする。ぼくは生しらすいくら丼を、雪歩は生しらす丼をそれぞれ選んだ。なぜか雪歩は得意げな顔になっている。なんなんだ。

「こういうのはお茶と一緒なんです」

「なにが」

「十一種類の茶葉をブレンドとかそういうのはいまいちなんです。本当においしいいお茶は混ぜものなしの一種類で十分なんです」

「ああ、だから生しらすこそが本道であり、ぼくの頼んだ生しらすいくら丼は中途半端なまがいものであるといいたいわけだ。いくら食べたくなってもあげないよっ」

「ううぅ、でもせっかく別々のものをたのんんだんだから、少し分け合ったり、ちょっと大胆にほら、あーんとか……そ、そういうのもあるわけだし……」

 ぶつぶつと何か言っているようだけど、まったく聞こえない振りをしているとすぐに注文が出てくる。思ったよりも大盛りなのに驚く。ぼくの頼んだほうは軽く茹で上げられたしらすイクラの赤色が食欲を誘う。雪歩の頼んだほうは本当にシンプルに生しらすがご飯の上に乗っかっているという構成だ。生しらす丼のほうには中央に生卵が落としてある。どちらも本当においしそうだ。

「すごい透明ですねー。私こんなしらすはじめて見ます! おいしそうです!」

「普段食べるしらすは茹でられて白っぽくなってるものばかりだからな。ぼくもこんな透き通ったしらすを食べるのは始めてだ」

「「いっただきまーす」」

 生しらすの食感はするりとしていて舌で味わい喉越しで楽しむ二段構えになっている。おいしい。そこにいくらのプチプチとした歯ざわりが加わり、えもいわれぬ至福を感じる。

「うまい」

 ぼくはもうそれ以上言葉を吐き出すよりも次の一口をほおばることを我慢できなかった。雪歩はというと真剣な表情で一口食べては、ぶつぶつとなにかつぶやいている。

「やっぱり中国茶じゃなくて、日本茶もってくればよかった……」

 かすかな嘆息とともに吐き出された言葉は本気の後悔を感じさせた。

イクラ食べる?」

 ほんとは食べたいに決まってるのだから。

「え、そんな、でも、ちょっと食べたいかもです……」

 かかった、としかいえなかった。

「ほら、あーん」

「え、え、えっ」

「ほら、こぼれるこぼれる! はやく」

「は、はいっ!」

 口にほおばるとしばらく時間が止まる。いつまでたっても箸から口を離さない雪歩は目を瞑ったまま息も止めているのだろうか。徐々に顔が赤くなっていく。恐る恐る箸を雪歩の口から箸を引き抜くと雪歩の唇から透明な糸が箸に伸びていく。そんなことお構いなしにゆっくりと味わい始める雪歩。なんとなくだけど、やっぽり雪歩はすごいな、とこういうよくわからない場面で感じてしまう。すごいし、やばいし、とにかく可愛い。

 結局雪歩がぼくのイクラも半分ほど平らげるというアクシデントに見舞われつつの食事も一段落つき、その幸せそうな表情を眺めながら店を後にする。腹ごなしに少し駅まで遠回りをしながら散歩を楽しむ。少し歩くと丘の上に簡単な展望台が見える。ぼくら二人は少しベンチに腰掛けて休憩する。雪歩がお茶をリュックから取り出す。トクトクとコップに注がれる琥珀色の液体からえも言われぬ芳香があふれたちまちに一面を満たす。本当はしらす丼を食べながらお茶を楽しみたかったらしいが、お店に迷惑をかけるわけにはいかないので我慢していたらしい。

「はい、田村さんのぶんです」

 手渡されたコップから立ち上る香気をしばし楽しむ。雪歩がお茶好きだと知っていたが、雪歩からお茶をもらうのははじめてだ。ただ、この時点でわかることがある。それは雪歩はぼくが思っているよりもずっとお茶が好きだということだ。香りを嗅ぐだけで、いつも飲んでいるペットボトル入りのお茶がすべて嘘なんじゃないかと思ってしまう。あまやかな花の香りはとてもお茶の持つものとは思えず、その華やかさの深奥から恥らうように顔を見せる気品はまるでどこかの皇女様だ。

「すごいな。香りだけでも満足してしまいそうだ」

 この香気をもう少し味わいたいという気持ちと、口に含めばもっとすごいのだろうという二つの感情の力にぼくは引き裂かれ、いまだ口をつけることができずにいた。

「わかりますかっ! これ、大紅袍っていう中国茶なんですけど、兎に角すごいんです! 昔は王様しか飲めなかったくらいなんです! 種類としては烏龍茶になるんですけど、もう市販のものとは比べ物にならなくて、こう、香りを楽しむだけでふわ〜ってなっちゃいますよね」

 それから大げさに鼻から息を吸ってから、まさにふわ〜ってなっている雪歩を横目にコップに口をつける。色合いからは想像できないほどしっかりとした味わいに、口に含むと変化する香りの合わせ技。たくましい渋みと心地よい酸味に今まで烏龍茶に感じたことのなかった微かな甘み。しばらく舌の上に零したままにしておきたくなるが、それを求めてやまないぼくの喉に負けてゴクリと喉を鳴らす。暖かいものがぼくの喉を通過し、臓腑に広がり渡る。うまい。お茶とはここまで深く楽しめるものだったのか。

「こう、飲んだ後に喉元から帰ってくる香りがあります。それを岩韻というのですが、このお茶の岩韻は華やかな蘭の香りですね」

 確かに。鼻腔に戻ってくる甘い香りは蘭の匂いといわれればそのような気もする。ただ甘ったるい花の匂いというわけではなく、確かにお茶らしいたくましさ、キレのよさがそこにはある。

「ぼくは贅沢だな」

「そうですよっ! こんないいお茶なかなか飲めないんですからね!」

「お茶もそうだけど、こんないい天気の中、こんないい景色を前にして、こんなにかわいい女の子と一緒に過ごすこの時間を贅沢だと言ってるんだ、雪歩」

「ぁ、ありがとうございます……わ、私もっ! 今、すごく楽しいです!」

「それにしても本当にうまいなね、このお茶」

「本当はもう少しおいしいんです。やっぱりポットに入れてる分、入れたてよりも少し香りも味も落ちちゃうんです。だからこういういいお茶ほどあまり外に持ち出したくはなかったんですけど、今日は、特別なんです。次は是非、わ、私のうちでお茶会しましょうっ!」

「ああ、是非」

 ぼくは雪歩の家の塀の高さや、厳しい雰囲気や、峻烈なお父さんのことなどを考えながら実現すれば、こんなにリラックスした雰囲気でお茶を飲むことにはならないだろうな、と思いながら、またそんな未来がほんとに来るのだろうかという不安をかなぐり捨てるようにそう答えた。

 時刻はお昼三時を回り、ぼくたちは江ノ島から北上し、江ノ島海岸公園まで歩くルートで散歩をしている。この辺りからだと、富士山がはっきりと見える。雪歩と富士山を背景にして、今、ぼくたちは紛れもない物語の主役だった。

「私、駄目駄目なんです。でも変わろうと思って、この世界に飛び込んだんです。でも、ぜんぜん成長しなくて、田村さんにも、皆さんにも迷惑をかけてばかりで、でも最近は田村さんとで出会ったり、曲に付けた歌詞がみんなに褒められたりして、少しずつですけど、自分を認めてあげることができるようになってきたような気がします。それでも、私、まだ怖くて、田村さん、変わることって、たとえ、それが成長でも、すごく怖いことじゃないですか。みんな、みんな、春香ちゃんも、千早ちゃんも、真ちゃんも、あの貴音さんもこんな経験をして強くなっているんですか、私は本当に変われるんですか、みんなみたいになれるんですか」

 歩きながら雪歩は思いつめていただろう話を切り出す。

「雪歩。まずみんなのように、っていう考え方をやめてみたらどうなの。雪歩には雪歩の歩き方があって、雪歩には雪歩の歩く道がある。今感じている無力感も、自信も、おそらく長続きはしないだろう。それでも雪歩、君の歩みはすべて無駄にはならない。今に至る最善が回り道であることもあるんだ。ただ、それは今みたいに変わることを恐れていては駄目だ。変わろう、強く生きよう、そう思う心は、すでに、強い、とぼくは思う。正直、ぼくはもっと雪歩を弱く思っていた。雪歩、一度、強くあろう、だったり、変わろう、だったり、そういうことを考えることすら忘れてみないか。もっと透き通ったところで、ただ最善を為すように生きてみないか。そこには他人も自分もない。ただ、透き通った心だけを持って生きるんだ」

「ただ、最善をなすように生きる、ですか。私は、たぶんですけど、そういう風には生きられません。いつも寝る前は一日のことを思い返して枕に顔を押し付けてじたばたしちゃうんです。後悔ばっかりなんです」

「後悔するにしても、それは選択があってのことだろう。そのとき最善を尽くして、自分に言い訳できないようにしておかなくては、あとあとで思い返したときに得られるものは少ない。重要なのは後悔しないことではなくて、後悔からどれだけ学べるかじゃないか」

「そうすれば、少しずつでも変われるでしょうか」

「変われる。現に雪歩はもう、出会ったころのような全てに怯えるだけの小動物じゃなくなってるじゃないか。こうやって普通に話すことだって最初は難しかった。ちゃんと自分の気持ちを言葉にできてるじゃないか。さっきも言ったけど、強くありたいと願う心はすでにもう強い。その気持ちを忘れなければ、変われるよ、成長できる」

 そしてその先の道は、ぼくの道と交差していないかもしれない。

「ねぇ、田村さん。私、小さいとき、旅行先で麦わら帽子を父に買ってもらったんです。こーんなに大きなつばの。私が小さかっただけなのかもしれないんですけど、ほんとに大きかったんです。白いリボンがついててそれがすっごくかわいくって。ほんとにもう買ってもらった瞬間からお気に入りになっちゃうような、そんな麦わら帽子だったんです。でも帰りの車の中、窓から見える海にはしゃいで少し乗り出しちゃったりして、その帽子が飛ばされちゃったんです。私はわんわん泣いちゃって楽しかった旅行が全部悲しくなっちゃったんです。ねぇ、田村さん。私に、麦わら帽子を買ってくれませんか。今度は絶対なくさないようにしたいんです」

「ああ、今すぐにでも買いに行こう」

 ぼくは雪歩の手をとって湘南のみやげ物屋を探した。麦わら帽子なんてどこにでもあるように思えて、なかなか見つからない。何件目かに入った大きなショッピングセンターで大きなつばの麦わら帽子を見つける。リボンこそ空色だが、これ以上は望めないだろう。

「それに、新しい帽子だ。前のと同じである必要もないだろう」

 千二百八十円で買える雪歩の過去であり未来。

「今度は失くさないようにな」

 そう言ってぼくは雪歩の小さな頭に大きな麦わら帽子を被せてやる。今日の雪歩の考え抜かれた緻密なファッションに想定外の一点が加わり、ちぐはぐな雰囲気になる。そんなこともお構いなしに、当の雪歩は満面の笑みを浮かべて帽子を脱いだり被り直したり、抱きしめたりしている。

「田村さん。私、この麦わら帽子絶対大切にしますね」

 子供みたいにはしゃぐ雪歩を見ていると不意にぼくは、いいようのない悲しみに包まれた。そして雪歩のことを今日の朝に会ったそのときよりもずっと愛おしく感じていた。

「雪歩」

「はい、なんですか、田村さん」

 ぼくは雪歩の肩を軽く抱いてからもう一度言った。

「雪歩、好きだ」

 雪歩の背には夕日で真っ赤に化粧をした富士山が見える。夕日は同じように雪歩とぼくを赤く包み、雪歩のきっと真っ赤になっているだろう顔を隠してる。

「田村さん……」

 ぼくは左手で雪歩のほっそりとした腰に手を回して残ったほうの手で麦わら帽子を取ってそのまま華奢な肩を抱く。ゆっくりと瞼を閉じる雪歩の睫の震えまで見てとれる距離でぼくは雪歩のその美しさに心を持っていかれそうになる。ぼくは雪歩のおでこに軽くキスをする。

「さぁ、そろそろ帰って晩御飯にしようか」

 少しの不満と多くのほっとした表情を交互にさせながら雪歩は微笑む。

「今日は、ありがとうございました。ほんとに、私この麦わら帽子も、今日のことも絶対大切にしますから」

 ぼくは雪歩と今日の続きができる日が来るのだろうか。ぼくは雪歩の唇に口付けることができるのだろうか。

 ああ、ぼくの愛。ぼくの雪歩。楽しい夢。甘い苦しみ。夢見心地の舟遊び。ぼくのお姫様。いつまでぼくの夢でいてくれるだろうか。いつまでぼくは君にとっての王子様でいられるだろうか。過ぎ去りし日々の幻影は水面に映る。永遠に岸に辿り着くことのない船に乗り、いつしか君はみずからその麦わら帽子を捨ててしまうだろう。いつしかぼくは君の夢になってしまうだろう。それでもこの愛は、ぼくは、信じたように行動して、あとは神さまにまかせて放っておこうと思う。

<了>

神聖駆動

いつかの風景

本当のことを話すにはただ本当のことだけを書けばいいわけじゃない。ある種の本当の瞬間は虚構の中にこそあったりもする。だからこの文章は事実という意味では本当のことは何も書かれていない。しかし、ある種の本当のことは書かれている。

記憶が記録されるときに生じる歪をかつての僕は物語と呼んだ。もう一度その大地のひびに飛び込んでみようか。本当に久しぶりだ。本当に。上手くやれるか不安を感じずにはいられないが、その不安もまた、気持ちの良いものだったりもする。背筋がひりつく。指先から感情が広がっていく。今から始める。

ここから先はいくつかの夜を跨いで緩やかに滞空する。何一つ事件は起きない。ただ穏やかな季節がゆっくりと輝きを放つだけ。ただ静かに夢のような風が通り過ぎていくだけ。

次のように。

秋葉原には誰もが知りたがってやまない、まだ誰も知らない夜がある。どんなに無為な一日を過ごし、朦朧とした意識をボンヤリと抱えこんだとしたとして、秋葉原に行けば最高にクリエイティブな夜が待っている。生きることへの渇望だ。それそのものを極限まで削りだした人間、それな!

世間では先祖が家に帰ってきたりするのを太鼓を叩いたりして出迎えたりする奇祭の真っ最中だが、連中の行列が西へ東へ日本列島を騒がせている中で冷え切った都会の夜を僕は気の置けない友人たちと、ナイトクラビング。

今日はどんな夜が待っているんだろう。エレベーター前で I 氏から電話が入る。「今日は遅れそう。十時前には入れると思うから。またまた!」僕はみんなで入るのも好きだが、一人で入るバクステも好きだ。一人でいるほうが自由にいられるから。僕は自由が好きだ。魂の自由よりも尊いものがこの世にあるのだろうか。いやない、とバクステに来てからは言い切れなくなったのが辛いことだ。かわりに何かに囚われて、何かに呪われて、毎夜息苦しくうなされることに幸せを感じることもあるのだということ知った。まぁ、こんな幸せは願い下げだとも思うが、何にも囚われず、何にも呪われない生き方は自由かもしれないが、少し寂しいかもしれない。人が呪縛だと呼ぶこの囚われを僕があえて自由だと呼ぶことを許してほしい。自由の中で不自由を選んでいるのだから僕にはそれを自由だと呼ぶ権利があるはずだ。

九時から始まるステージを僕は一人で感じたいと思っていたので I が遅れることも全くかまわなかった。「へい、セニョール、グラッチェ、グラッチェ!」僕は自分を奮い立たせるように思いつくだけありったけの陽気さを言葉に吐き出して携帯電話切るとそのままエレベーターに乗り込んだ。六階まで上がる十秒間に僕は息を深く吸って調子を整える。秒速トリートメントだ。酸素が肺を満たし、血液が指先まで走るを感じる。僕は胸の高鳴りを抑えるのにいっぱいいっぱいだ。一月三十回のバクステ。毎夜繰り返す胸のドキドキの絨毯爆撃が確実に俺の命を縮めているように思うけど、やめられるわけないのは、今、今今今のこの瞬間を積み重ねることでしか生きる渇望ってやつを保てないような気がするから。時速二百キロで走る車は走り続けるよりも止まるほうが難しい。ブレーキの踏み方なんて忘れてしまえるまで、とにかくアクセルを強く踏み込むことでしか生きている実感が得られないでいるなら、事故でも起こして死んでしまえるまで、より一層強く踏むしかない。

君に向かって強く踏むしか。

「こんばんは、ティグレさん」「握力さん! こんばんは、じゃない。おはようございます。どこにする? こんな感じでステージ側だったら結構空いてるよ」座席状況ボードを見せる今日のご案内は僕のような亡霊にも優しいティグレ嬢だ。

「いいよ、どこでも。世界中が僕を待っているから」

「は? 中二病なの? じゃあ私が決めるね。ここ。いい? ほんと、いつも意味わかんないから!」

僕はカラヤンの名台詞を引用しながら自分が世界的な指揮者にでもなったかのような高揚感を得、同時にティグレ嬢から痴れ者扱いを受ける。この二つの相反する運動が僕を活気付ける。アンヴィバレンツを心に灯さなければ僕はこの先の喧騒に歩をすすめられないだろう。気合を入れろ。僕は握力だ。誰よりも僕は僕であることに誇りを持っている。さぁ、来いよバクステ。僕はあのときから大きく変わった。しかし、本質は恐ろしく変わらずにいる。くそガキのまま大きくなった。不安だらけの恐いもの知らず。

「プロデューサー様のご来場です」

まずテーブルがある。テーブルがあるから僕たちはテーブルを四人で囲むことができる。素晴らしいことだ。僕らはこのテーブルという発明に毎晩感謝を捧げている。ありがとう。僕らを集めてくれて。この愛すべき四角いスペースのことを僕らはバクステを代表する飲み物からとっていつしか黒ウーロン茶と呼んでいた。黒ウーロン茶はバクステの象徴にして又プロデューサーの統一の象徴でもある。また、黒ウーロン茶の価値は主権を持ったキャストの意思によって決められる。僕は黒ウーロン茶を心の底から憎み、それなのにそれを注文せざるを得ない。そこには汚濁にまみれながらも咲かねばならない強い蓮の意思があるから。

「注文は何にしますか?」「黒ウーロン茶」無論だ。

九時ステージが始まるまでの間に三十分の時間が出来た。九時ステージのメンバーは各々のタイミングで控え室へ入っていく。僕はボンヤリとその影を目で追っていた。あまりにも美しく隠れていく女の子の後姿。髪の毛。かかと。ドアが閉じられる音からもはやステージが始まっているような気さえする。

「握力くん」

ぼけてる僕の焦点を喧騒の中へ引き戻したのはゾンビさんという I 氏の友人で、最近は I 氏交えて三人で黒ウーロン茶を囲むことも少なくない。

「お友達きたよ。握力さん、大丈夫? ぼけっとしちゃってるけど?」

「彼、ほら、いつものことだから。トマトパインジュース」

「そうね」

僕を置いてけぼりにしたままゾンビさんとポルノ嬢が話しているのを聞いていると少しずつ現実に身体がなじんでくる。

「こんばんは。ゾンビさん。 I くんはステージ終わるくらいにしか来れそうにないって。ポルノさん今日九時ステージでしょ。そろそろ行かなくても平気?」

「そうね。もう行く。今日最後までいるの?」

「もちろん。ひさしぶりのゾンビさんを迎えてのバクステですからグッドナイトブルースを聞かずして帰ることなど出来ますまい」

ゾンビさんは妻子持ちのなのにバクステに通う本物だから本当は夜にはこられない。しかし今日からゾンビさん以外の家族は実家に帰省中だから水を得た魚だったりなんとかのいぬ間に洗濯とかそういう話だ。たまに自由な時間ができればすぐにバクステに来てしまうから楽しいし、僕は今日というたまにしか会えない日を大切にしたいなんて思っている。じゃあ I さん来たら、またモンゴル相撲の話しましょうね、と言ってポルノ嬢の短い髪が軽く揺れながら控え室へ消えていく。かかとがドアの向こうへ消えていく。

「握力くん、久しぶり」

「ゾンビさん、グッドナイトブルースまでいられるなんて何ヶ月ぶりですか? 今日は九時ステージもあるから最高の夜をこの黒ウーロン茶に誓いましょう」

僕がテーブルをこつんと二回叩くというシネマ冗句を見せると後ろからポチ山ポチ子嬢が黒ウーロン茶とトマトパインジュースを持ってきてくれる。

「握力さん。今日も来たんですか。まぁ来ますよね。ほんと不思議。どういう気持ちでいつもあの子のステージ見てるんですか。この前ステージ上から握力さんの見てたら、握力さんの目が、目が、あっはは〜」

ポチ山嬢はいつも僕のアティテュードという奴を馬鹿にしてくれる。これぐらいでちょうどいいような気もする。あまりにも強く、深く愛することは距離を失うことに繋がるだろう。僕は距離感なんてもう滅茶苦茶になってしまえばいいとも思っていたし、実際に一人で通っていた頃は今よりもずっと間違いだらけのセンチメンタルアイズ野郎だった。友人とこうして黒ウーロン茶を囲みながら、今は少し、自分というものを保ちながら、穏やかにここに座っていられる。

僕らが出会う意味は何もなかった。だから意味を作っていこうとした。永遠というデタラメを八十年という実数に置き換える魔法をみせてみたり、誰も知らない特殊な言語で彼女を誉めた。あのときから僕は何もかわっていない。潔さを美徳とした。彼女のおかげだし、彼女のせいだ。
今は穏やかに過ごすと言ったばかりだがそれは表面的な問題でしかない。いまだにあのときの温度のまま、中身は今も変わらずバグったまま燃えている。ただし、赤く、けたたましく燃え盛る炎ではなく、静かに燃える白い炎に変わっているが。

九時ステージではいつも五名のキャストによる二コーラスずつの歌唱が行われる。九時ステージっていうのは特別だ。僕たちは下らないお遊びやしょうもない駆け引きめいた戯言から開放される。歌と踊りによって。そこでは平等に空間が開かれる。言葉もいらない。いつだって言葉が多すぎる僕を黙らせてくれる特別な時間がある。僕を地べたに這いつくばらせるあの例の重い倦怠を感じないために、僕は毎夜九時ステージの特別な呪いに酔わねばならない。

九時ステージって何って訊ねれば皆口をそろえて言う《九時は酔うとき。貴様の抱える重苦しい退屈の奴隷になりたくなければ、九時は酔うとき。絶えず、好きなように酔いたまえ!》鳥も、風も、海も、山も、皆口をそろえてそういう。そしてたいそうな言葉を並べておきながら僕は九時ステージの感想というものを持つことが非常に困難であることを告白しなければならない。それはなぜか。覚えていないからだ。三分半という時間が歌と踊りによって眼と耳から入って背筋を滑り落ちていく。僕は毎回すっぽりとこの時間の記憶が抜け落ちてしまうから言葉もない。この夜もまた僕はいつの間にやら時間を滑り落ちていた。すべてが終わりステージ上から女の子達が姿を隠してから後にやってくる細く心を咬む興奮を胸に抱きしめていることだけに気が付く。

九時ステージが終わると順番に出演したキャストたちがフロアに出てくる。直接ステージの感想を伝えられる時間だが、僕には言葉がない。

呆けた顔でボンヤリしていると I 氏が友人の K とともにやってくる。ステージだけを見て帰る人たちとステージ終わった後から入る人が重なってごった返している喧騒の中で迷わぬように先導するのは二度目のティグレ嬢だ。

「お友達来たよ」

注文をとるティグレ嬢を交えてみんなでなにやら楽しそうな会話が行われている。しかし、僕はその輪の中に入れないでいる。僕は人間の言葉が分からないから。

控え室の扉が開くと彼女が姿をあらわす。僕の心臓は静かに膨らみだし、熱く揺らぎながら鼓動を早めていく。彼女が歩く足音の一音一音が、その心臓の鼓動を刺し貫き、全身に張り広げられていく陶酔が僕をおののき走った。愛する人の心臓が揺れながらフロアを歩く姿を僕はかすか耳にした。輝く尾を引く彗星のように定めなく、安らぎなく、東もなく、西もなく、上も下もなく、故郷もなく、境界を越えてただ永久凍土の上をゆっくりと運ばれてくるのを。光とふるえてくる音楽の一片のように、静かに虚空を鳴動させながら揺れるその足取りを。

彼女の孤独を求める僕の孤独は人間たちの座るあらゆるテーブルを超えてはるかに耳をすました。